学会発表:2023:

東北地方の小資本コミュニティ放送局
山田晴通(東京経済大)

 コミュニティ放送は、1992年の制度化から30年を迎え、新規開局事例の経営規模は、顕著に縮小化してきた。東北地方においても、かつてに比べ、近年は資本金が小さい事例が目立つ。本報告は、2020年以降に開局したコミュニティ放送局2事例を素描し、小規模局の現状と課題について検討を試みる。
 秋田県大館市の大館放送株式会社の社長である小山明子は、東日本大震災を契機に食育の重要性を認識し、以降、みそソムリエなど各種の資格を取得し、秋田市や大館市を拠点に様々な社会活動などを展開して、地元メディアに様々な形で露出するようになった。秋田椿台エフエム放送(「エフエム椿台」秋田市=旧・雄和町)や、鹿角コミュニティFM(「鹿角きりたんぽFM」鹿角市)で番組を持った小山は、防災メディアとして優れたコミュニティ放送局を、大館にも開局させたいという思いをもつに至った。
 2019年6月、小山は、およそ1000万円の資本金の6割弱を出資して大館放送株式会社を設立し、事実上のオーナーとなった。開局資金の不足分は、小山が親から借り入れて調達した。小山の実家の家業であるゴルフ練習場の施設内に送信所と演奏所を設けた大館放送は、2020年6月11日には予備免許を受けたが、機材設備が遅れ、本免許は12月23日におりた。これを受けて、2021年1月17日午前10時から本放送が開始され、愛称は「ラジオおおだて」、周波数81.4 MHz、出力20 Wでの放送が始まった。
 大館放送は、正社員はおらず、10人ほどいるパーソナリティも、無報酬のボランティアに近い。専従の営業担当者もおらず、年間の総人件費は200万円程度である。一方、収入では、市の広報から年間300万円ほどと大きな柱になっている。独立した広報番組はないが、生ワイド番組の中で、随時、市の広報が読み上げられている。
 2023年2月の時点で生放送の総時間は、およそ週あたり16時間ほどあった。しかし、3月に小山が乳がんでの闘病を発表した後は、週あたり5時間半ほどに圧縮された。
 山形県新庄市の新庄コミュニティ放送株式会社の社長である小関淳は、書店経営や市議4期を経て2019年9月の市長選挙に立候補し、接戦の末に敗北した。落選後、小関が熟慮の末に決意したのが、コミュニティ放送局の開局であった。
 2020年11月6日、小関は新庄コミュニティ放送株式会社を、資本金500万円で設立した。株式の額面は5万円で、1人20株を上限として出資を募り、資本金は開局時点までに1740万円、2022年には1905万円となり、株主は56名となった。3000万円を超える開局までの初期費用に対してなお不足した資金は、金融機関からの融資で賄われた。
 この間、2021年春から免許申請が取り組まれ、7月8日 に周波数89.4MHzで予備免許が下り、翌8月10日 には、周波数を89.6MHzに変更して本免許が出された。新庄コミュニティ放送は、「あすラジ」という愛称で8月16日から試験放送を開始し、9月1日に出力20Wで正式開局した。
 2023年8月時点で、スタッフ11名のうち正社員は4名、あとはフリーランスである。放送時間は、平日が午前7時から午後8時まで13時間を生放送、土日や祝日は録音放送(再放送)をのべ3時間はさみ、残り10時間を生放送している。これを、平日は平均6人から7人、土日は4人ほどで回している。
 新庄市とは「災害時における災害情報等の放送に関する協定」が締結されており、放送では、しばしば市の広報の内容が紹介されるが、広報番組は提供されておらず、市からの金銭的な支援は一切ない。このためもあり、新庄コミュニティ放送は、現状では「毎月50万円ほどの持ち出し」という構造的な赤字体質になっている。


////社会経済地理学/地域研究/地誌////

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