矢田俊文氏、寄藤昂氏ら地理学者が深く関わって制作されたCD−ROM版『風土記』の試みである。表題の『97』は、福岡県の市町村数と、刊行年度をかけたものらしい。六〇頁の冊子に、同内容のWindows95版・Macintosh版のCD−ROM各一枚がついている。
メニュー画面のトップには「市町村のページ」が置かれ、県内の全市町村について、共通フォーマットで、文章による紹介や、地図、基本的な統計、自治体の沿革、地元出身の著名人などのページが用意されている。各市町村ページの記述は、要領よくまとまっているものの、全体的に「郷土自慢」調で、中にはバランスの悪い記述ある。「地誌」として読むには少々不満が残る。
以下、メニューには「福岡県の概要」にはじまり、歴史、産業、自然、文化など、県域についての各論が並んでいるが、こちらはなかなか充実している。中でも、矢田氏が担当した「鉱工業」、とりわけ「石炭鉱業」の部分は、ていねいに構成されている。特に、明治期の炭鉱の様子を描いた絵の画像や、「石炭の採掘」と題された十五分ほどの記録映像がそっくり収録された動画は、その資料的価値も含めて、意義深い試みである。
収録データを教育目的で利用することが一定の範囲で認められているなど、全般的に、教育現場で使用されることが十分意識されている点も評価できる。加工済みの図表も豊富で便利だが、それ以上に、統計や年表を表計算ソフト等に取り込める点などが、ユーザーにとってはありがたい。参考文献も、充実している。テキストも含め、教師にとっては教材づくりのヒントが豊富に盛り込まれた便利なリソースとなろう。また、身近な祭や、芸能人の話題などの親しみやすい内容や、歴史的文物から観光地の風景まで、ふんだんに画像を使っている点から見て、生徒の自習にも大いに活用できそうである。
細かく見ていくと、画像やリンクの処理にもう一工夫欲しいところもあるが、それも一定以上の水準に達していればこそ言いたくなる注文であろう。使いながら、あんな事もできないか、こんな事はどうかと考えさせてくれること自体、このCD−ROMの価値の一部なのだ。今後の同種の試みにとって、乗り越えるべき目標とされてよい内容をもったCD−ROMとして、福岡県関係者のみならず、地理教材の開発に関心をもつ方などに、広く推薦したい。 (東京経済大学・山田晴通)
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