雑誌論文(その他):1997:

ホームページを利用した日本の大学の広報活動の概況.

コミュニケーション科学(東京経済大学),6,pp107〜117.


■本稿の課題
■検討の対象
■検討項目と作業手順
■集計結果
■今後の検討に向けて


ホームページを利用した日本の大学の広報活動の概況

■本稿の課題

 本稿は、日本の大学が、いわゆる広義の「ホームページ」(インターネットのサイトに置かれたウェブページの総称)を利用して行っている広報活動について、その全体的な概況の把握を試みた、筆者の1995年から1996年にかけての研究成果の一部である。ひとくちに日本の大学といっても、その性格、規模、実態は千差万別であり、インターネットに対する取り組みの特徴や進行状況にも、大きなばらつきがある。例えば、いちはやくインターネットを導入し、サイトを構築した大学においては、研究上の情報交換などにインターネット利用の重点が置かれているところが多く、広報目的のインターネット利用には関心が弱い傾向がある。逆に、後発でインターネットに取り組んでいる大学、特に私立文系の大学では、広報的な利用への安易な形での傾斜が見受けられる場合が少なくない。また、学内に無数のサーバが存在するような大規模な大学と、DNSにサーバが一つしかないような小規模の大学では、インターネットに取り組む組織の位置づけ、ホームページの性格づけなど、すべての条件が、当然まったく違ったものになってくる。さらに、これは大学に限ったことではないが、相当にページの拡充が進んでいるサイトでも、広報という観点からみれば不十分な事例もあり、一般的な意味で充実したサイトであることと、広報的な視点から評価できるサイトであることは、結果的には多くの場合に一致するとしても、さしあたり単純にイコールでは結べない、という問題もある。しかし、何らかの建設的な議論を展開するためには、このような諸々のやっかいな問題があることを承知した上で、あえて(多少乱暴な形ではあるが)現状の計数的な把握を試み、議論の素材となるデータを提供することが、まず最初に取り組むべき課題であろう。本研究は、この課題に応じようとするものである。
 本稿は、この研究の第一段階として、日本の大学における狭義の「ホームページ」(サイトを代表するページとしてインターネットに開かれているページ:以下、特に断らない限りこちらの語義で通す)の概況を量的に把握し、提供されているページや情報の量的な側面から、若干の経験的類型を整理することを目的としている。以下に論じる内容は、1995年12月から1996年6月頃にかけて、予察的に各大学のページを見て回った経験と、1996年7月から9月にかけて、研究室内のサーバ上に「日本の大学・学部一覧」インデックスを作成した経験にもとづいて、議論の骨格が組み上げられている。そして、具体的なデータの整理は、1996年10月から11月にかけて取りまとめられた。インターネットをめぐる状況は非常に流動的であり、本稿の報告にしても、印刷媒体の形で刊行される頃には内容が陳腐化していることが避けられないものと思われる。本稿の内容は、大学におけるインターネットの普及が、小規模大学や私立文系大学を含めて本格的段階に入った1995年〜1996年時点における、一つの断面図の提示という風に捉えていただきたい。

■検討の対象

 本稿で検討の対象とする「日本の大学」は、短期大学を除いた大学(一般の大学のほか、大学院大学を含み、放送大学を含まない)である。学校基本調査(速報)によれば、この範疇に含まれる大学は、1996年5月現在で全国に576大学が存在している。このうちインターネット上にサイトを設け、ホームページを用意している大学が本稿の検討の対象であり、本論に先だってその範囲を確定する作業が必要となる。日本の大学の「ホームページ」のURLを検索できる既存のインデックス・サイトとしては、それぞれに特徴をもったものがいろいろと存在している。各インデックスの特徴については、「日本の大学の基本的情報・URLを探せるサイト」(http://camp.ff.tku.ac.jp/TOOL-BOX/JapanUNIV/JUlink.html)を参照して頂きたいが、筆者は、こうした先行するインデックスに学びつつ、独自に自前のインデックスとして「日本の大学・学部一覧」を構築した。具体的には、対象となるすべての大学について、学部構成、所在地、電話番号等のデータを入力した上で、以上の各サイトのデータを名寄せする形でURLデータを整理し、リンクを設けていく作業を進めた。その過程では、ブラウザに、Netscape1.1[ja](商品版)と、試行版段階であるNetscape3.0を併用し、東京経済大学内の筆者の研究室のシステム(以下、「当研究室」と表記)からアクセスを試み、使い勝手を確認した。
 各インデックスにURLの記載のあるページの中には、性格を異にするものが混在している。公式ページをうたっているものは数の上では少数であるし、あくまで暫定ページであると断っているものもある。また、各大学のDNS内にあるものだけでなく、プロバイダ上のページもある。したがって、公式、ないし準公式的な内容のページを集約するためには、各インデックスにある記載を単純に名寄せするだけでは不適当であり、一定の基準を設けてページを選別しなければならない。ここでは、以下のような手順で、各大学を代表する「ホームページ」を確定した。まず各大学のDNS上に、大学全体を代表するような狭義の「ホームページ」が設けられている場合、それ以外の大学内の特定の部局(図書館、電算センターなど、あるいは特定の学部、分校)が運営している「ホームページ」は、サイトを構成する多数のページの一つにすぎないものとみなした。特定の部局が運営しているページであっても、大学全体を代表するホームページが他に存在せず、内容的にも大学を代表する性格をもち、大学のDNS上に構築されていれば、「ホームページ」であることをうたっていなくても「ホームページ」とみなした。その際、当該ページが「公式」であるか否か、「正式」運用か「実験」運用か、業務として作成しているのかボランティアか、といった差異はいっさい無視した。これに対して、内容的に大学全体を代表しないページばかりがある場合は、大学のDNS上に構築されていても「ホームページ」とはみなさなかった。大学を含む複数の学校を経営する学校法人がサイトをもち、その中に大学のページが設けられている場合は、大学に直接関係する部分だけを検討の対象とした1)。逆に、大学のDNSに存在する付属学校等(短期大学部等を含む)のページは、検討の対象から外した。プロバイダなど、大学のDNSとは異なる形で設定されているページは、内容に公式的な要素が含まれていても、本稿では検討の対象外とした2)
 そうした作業の結果、1996年10月現在で以下のように、大学のページの概況を把握した。

  ・何らかの資料からURLを知り得た大学.....352大学
  ・当研究室から、アクセスに成功した大学.....340大学
  ・ホームページに何らかの中身がある大学.....331大学
  ・ホームページが大学のドメインにある大学...321大学
  ・検討対象としてリストアップした大学.......320大学
  ・検討対象とした大学.......................316大学

検討対象としてリストアップしながら、最終的な検討対象から外れている大学は、最終的な調査期間に接続が不調で、内容の確認ができなかったものである。検討対象の内訳は、国立99大学、公立29大学、私立188大学である。

■検討項目と作業手順

 本稿のはじめでも述べたように、ホームページの概況を把握するために、本研究では最終的にいくつかの項目を用意して、それについて実際に各大学のページを見て回り、それを記録していく作業を行った。項目を設定する前に断続的に数カ月かけて行った予察的なネットサーフィンを別にしても、これには膨大な作業時間が必要となった。当初は、筆者が単独で作業することも検討したが、調査時期があまりに長期にわたると、ある時点での概況を捉えたいという本来の趣旨から外れてしまうことになるので、作業者を委託し、筆者と分担して検討項目をチェックする作業に入った。作業者には、全体のほぼ半分に当たる範囲の作業を委託したが、筆者は作業者の担当範囲についても追作業を行ったりしたので、最終的には全大学の七割方には目を通した。作業者には検討項目と作業の指示を予め与えたが、用意した項目の一部は、想定した分類が不適切であったり、作業の指示内容に曖昧な点があっために、最終的には集計を断念せざるを得なかった。
 最終的に、意味のある形で数値が把握できたのは以下の各項目である。

  ・ホームページからたどれるページ総数(概数)
  ・ホームページからたどれる英文ページの有無
  ・管理者宛メール発信リンク(mailto)の有無
  ・所在地表示の有無
  ・入試情報の有無
  ・個人ホームページをもつ教職員の数(概数)
  ・個人ホームページをもつ学生の数(概数)
  ・図書館ページの有無

このうち、概数としてページ数を示す項目は、<0、1、2-4、5-9、10-49、50+>の6階層からの選択とした。これは、全てのリンクを文字どおり隈無く探っていくことは作業上不可能であることから、ある程度以上の段階で作業を打ち切ることができるようにしたものである。なお、最大階層の閾値を50としたのは、筆者のサイトが、およそ半年の構築作業でおよそ100ページ程度の規模(ただし、ほとんどがテキストのみ)となったことから、50ページ未満は個人の独力で構築され得る範囲であり、それを越えるためには組織的な営みが前提となると判断したためである。また、実際の作業においても、50ページを越える大学について、それが、例えば100以上なのか、以下なのかを判断することはきわめて困難であることが明らかになった。
 以下、各項目について、作業にさいしての判断基準を示しておく。ただし、これらの大半は、筆者が作業者に与えた指示そのものではなく、作業の過程で、筆者自身が判断基準の修正を迫られたり、作業者からの疑問点に応じた調整をしたりする中で、基準を変更したり、精緻にした結果を後から集約したものである。

・ホームページからたどれるページ総数(概数)
 ホームページからリンクをたどって到達するページのうち、以下のページを除いた総数。
  ・大学のDNS外にあるページ
  ・付属学校等(短期大学部等を含む)のページ
  ・<ここには中身がない>という趣旨のメッセージだけのページ
  ・gif ファイル等の画像を表示するだけのページ
  ・自動観測によって生成されるデータを表示するだけのページ
ページ数にはホームページ自体も含める。したがって、ページ総数が0ページとなることはない。ただし、概数の階層がもはや変わらないと判断されれば、探索を打ち切る。

・ホームページからたどれる英文ページの有無
 大学に関する情報を、まとまった英文で記述しているページは、英文ページと見なす。まとまった英文の記述を含んでいる日英両文によるページは、英文ページと見なす。
 ホームページから直接たどれる位置に英文ページがない場合は、大学のDNS内に英文ページが存在していても、英文ページなし、として扱う。例えば、研究室や個人が英文ページを作っていても、ホームページから英文によるリンクがなければ、英文ページはないものとなる。
 ホームページからたどれる目次のページが英文であっても、そこからリンクする先に大学のDNS内にある英文ページが存在しない場合、つまり、学内の日本語ページや、大学外の英文ページへのリンクしかない場合は、目次のみ、とする。
 英文ページがまったくないか、存在しても未構築であることを告げるメッセージだけがある場合は、英文ページがないものとする。

・管理者宛メール発信リンク(mailto)の有無
 ホームページ、または、そこから直接リンクが張られているページに、mailtoコマンドを使って、ホームページに対して責任を持つ部局へのメール発信リンクが(一つ以上)設けられている場合には、管理者宛メール発信リンクがあるものと見なす。
 管理者のメール・アドレスが表示されているだけで、メール発信ができない場合は、表示のみ、とする。
 それ以外は、電話番号等、連絡先の記載の有無にかかわらず、管理者宛メール発信リンクがないものと見なす。

・所在地表示の有無
 ホームページ、ないし、所在地案内等のページに、所在地が表示されている場合、表示があるものとする。
 所在地の表示が、入試関係のページだけにある場合、表示が英文のみである場合、学部によって表示の有無が分かれる場合、などは、表示が不完全なものと見なす。
 ホームページから近い階層にある、ホームページ管理者が直接管理するページのどこにも所在地の表示がなければ、たとえリンク先のページ(例えば、個人ページ)に所在地の表示があっても、ホームページに表示があるものとは見なさない。

・入試情報の有無
 入試情報(日程、形態、会場、その他)に関する独立したページが、ホームページから近い階層に存在し、具体的な情報が提供されている場合、入試情報があるものとする。
 入試情報のページがあっても、具体的な情報提供が全くない場合は、入試情報がないものとする。複数の種類・形態の入学試験が行われる大学にあっては、そのうち一つだけに関して(例えば、大学院の入試に関してだけ)でも具体的な情報があれば、入試情報があるものとする。
 入試情報が、学部ごとに別々のサーバに提示されている大学にあっては、全学部が入試情報を提供している場合にのみ、入試情報があるものと見なし、一部の学部に関してしか、入試情報がない場合は、情報が不完全なものと見なす。

・個人ホームページをもつ教職員の数(概数)
 教職員とは、ページの内容等から、常勤の教員、および、常勤の職員と判断される者とする。非常勤の教員は含まない。
 大学のDNSの内外を問わず、大学のホームページからリンクをたどって到達できるページならば、ここでいう個人ホームページと見なす。
 大学によっては、統一的なフォーマットで、経歴や業績、講義・ゼミナールの内容などを中心とした、教員紹介ページを作成して、「ホームページ」と称している場合もあるが、こうした統一的なフォーマットによるページは、個人のホームページとは見なさない。また、学生が教員を紹介する形のページも個人ホームページに含まない。ただし、こうしたページを大幅に加工する形で、プライベートな内容も含めて情報が提供されている場合は、個人ホームページと見なす。
 探索に際しては、大学のホームページなどに教職員のページへのリンク集などが設けてある場合でも、そこにあるリンクの数などを鵜呑みにせず、リンク先のうちどれくらいが、個人ホームページとみなせるかを点検するとともに、他の場所からリンクが張られている個人ページがないかどうかを確認する。概数の階層がもはや変わらないと判断されれば、探索を打ち切る。
・個人ホームページをもつ学生の数(概数)
 学生とは、ページの内容等から、学部、または、大学院の学生(研究生を含む)と判断される者とする。卒業生は含まない。  大学のDNSの内外を問わず、大学のホームページからリンクをたどって到達できるページならば、ここでいう個人ホームページと見なす。
 理工系の研究室やゼミナールなどによっては、統一的なフォーマットで、学生紹介ページを作成して、「ホームページ」と称している場合もあるが、こうした統一的なフォーマットによるページは、個人のホームページとは見なさない。ただし、こうしたページを大幅に加工する形で、プライベートな内容も含めて情報が提供されている場合は、個人ホームページと見なす。
 探索の方針は、個人ホームページをもつ教職員の数の場合に準じる。

・図書館ページの有無
 独立した図書館のページがあり、オンライン検索サービスが提供されている場合は、そのサービスが学内や、一定の資格を有する者に限られている場合でも、サービスあり、と見なす。
 オンライン検索がいっさい提供されていないが、独立した図書館のページがあり、図書館の概要が紹介されている場合は、ページあり、とする。施設紹介のページ等で、図書館の蔵書数その他の情報がある程度まとまって記述されている場合には、独立した図書館のページがなくても、ページあり、と見なす。
 図書館に関する情報が大学のホームページ付近に存在しないか、あっても施設紹介の一環としての写真だけ、といった場合は、ページなし、とする。

 なお、以上の項目のほか、公開講座や学会等の広報、教職員募集の広報、就職に関する企業向けの広報については、集計に耐える形でデータをまとめられなかったが、以下では必要に応じて定性的な記述、事例の提示によって、作業の成果を反映させることにしていきたい。

■集計結果

 検討対象としてデータが集計されたのは、316大学であり、大きな数ではないので、以下では実数を挙げながら簡単に解説していく。

・ホームページからたどれるページ総数(概数)
  ・1........ 5
  ・2-4...... 7
  ・5-9...... 12
  ・10-49....118
  ・50+......174
 50ページ未満のサイトはのべ142あり、全体の半数に近い。ページ総数の比較的少ないサイトでは、意匠に凝った例が多く、中には相当に「重い」ページもある。これは、大規模のサイトの中にも、テキスト中心の「軽い」ページをホームページとしているところがあるのとは好対照である。10ページ未満の24大学の内訳は、国立0、公立2(福岡女子大学、神戸市外国語大学)、私立22であり、インターネット導入に際しての国立大学優位が反映された形となっている。

・ホームページからたどれる英文ページの有無
  ・英文ページあり....200
  ・英文目次のみ...... 19
  ・英文ページなし.... 97
 英文ページあり、とされている場合、その中身は、大学の概要や沿革、学長の挨拶などを英訳した文書であることが多い。さもなければ、英文目次に、英文ページを用意している学内の研究室等へのリンクが設けられているために英文ページあり、となっている事例が大半である。
 これは英文ページに限ったことではないが、設けられたリンクの先に、何もページがなかったり、「工事中」の表示だけのページがあるのは、ページへの訪問者には不親切な対応である。英文目次からリンクされた先が、すべて日本語のページというのでは、何のために英文にしているのかが曖昧になる。不適切なリンクは、クリックできないようにしておく(あるいは、リンク先が工事中である旨を目次のページ上に表示する)べきであろう。特に英文の目次は、日本語の目次に準じて構築してしまい、そのまま放置されることが多いだけに、問題が生じやすい。また、日英両文の場合には、英語のみ対応のブラウザで見た場合のことも考えて、文字化けが見苦しくないようにする工夫が必要であろう。
 なお、ページ総数が50ページ以上、すなわち一定の規模を擁している大学のうち、英文ページなしとなったのは25大学、内訳は、国立4、公立0、私立21であった。ただし、国立大学のうち、信州大学は、各学部・部局のサイトには英文ページが揃っているのに、大学全体の連合ホームページに英文版がないために、英文ページなしとされたものであり、奈良教育大学は、英語ホームページ(http://www.nara-edu.ac.jp/)が存在しているにもかかわらず、日本語ホームページからのリンクがないために、英文ページなしとされたものである。従って、実質的には、国立2、私立21大学が、相当の規模のサイトを構築しながら、英語使用者に対する対応が遅れているということになる。
 ちなみに、英語中心に発達してきたインターネットにおいては、日本語だけのページを作るような場合は、英語でその旨を表示するのが礼儀(いわゆるネチケット)だといわれるが、実際には英文のないページでも、こうした表示をつけていないページは相当多くなっている。(なお、筆者自身は、この習慣が厳守されるべきものだとは考えていない。)

・管理者宛メール発信リンク(mailto)の有無
  ・リンクあり....199
  ・表示のみ...... 62
  ・表示なし...... 55
 ホームページを見た反応を、簡単にフィードバックできる回路として、管理者宛メール発信リンクは便利なものと考えられるが、実際には、あえて表示をしていないサイトが少なくない。これは、フィードバックを考慮していないためというよりも、電子メールに関する信頼性なり、電子メールで寄せられるテキストに対する感性が問題となっているように思われる。表示なしとなっている大学も、大半は、電話やファックスの連絡先、あるいは郵便の送付先を表示して、フィードバックを受け入れる姿勢を示している。
 また、内容によってフィードバックする先を複数化している例も、大規模なサイトを中心に増えて来つつある。
 それでも、少数ながら、仮にフィードバックをするとしたらどうすればいいのか、皆目分からないサイトも存在している。

・所在地表示の有無
  ・表示あり......172
  ・不完全........ 30
  ・表示なし......114
 フィードバックとの関連から興味深いのは、ホームページに大学所在地の記載のない事例が、意外に多いという点である。大学への交通案内は地図などを使って詳しく説明しているのに、所在地の表記がない事例も(数え方で多少増減するが)30余りある。電子メールなどによってコミュニケーションできれば用が足りるということがあるのかもしれないが、郵送せざるを得ないものがあれば、電子メールで所在地の照会をしろということなのだろうか。
 インターネットが拡充していくとしても、郵便物の宛先として、所在地の情報は基本的かつ不可欠なものではなかろうか。

・入試情報の有無
  ・情報あり......160
  ・不完全........ 11
  ・情報なし......141
  ・未確認........ 4
   (入試情報へのリンクはあるが接続できなかった大学)
 事前の予測では、国公立大学の場合、入試情報の比重は低くなるものと思われた。実際には(数え方で多少増減するが)概ね50余りの大学が何らかの入試情報を提供する一方、73大学は(個別の研究室等が情報提供しているような場合を除いて)入試情報を提供していないことが明らかになった。この比率は、私立よりは情報提供に消極的であることを示してはいるものの、著しい差ではないものと思われる。

・個人ホームページをもつ教職員の数(概数)
  ・0........121
  ・1........ 11
  ・2-4...... 40
  ・5-9...... 35
  ・10-49....101
  ・50+...... 8
・個人ホームページをもつ学生の数(概数)
  ・0........134
  ・1........ 8
  ・2-4...... 18
  ・5-9...... 14
  ・10-49.... 76
  ・50+...... 66
 ここでは、数字を論じる前に、二つの点に留意しなければならない。
 第一に、ここで個人ページとして数えているのは、大学を代表するホームページからたどれるものの概数でしかない。実際には、大学のホームページからたどれない個人ページは数多くあることが想像されるし、中にはサーチ・エンジンに登録されていたり、各種メディアで紹介されているページもある。特に、ある程度以上の規模の大学で、教職員や学生の個人ページが存在しているはずなのに、数値としてゼロとなっているような事例は、大学のホームページが、ポリシーとして学内の個人ページへのリンクを張っていないものと解釈すべきであろう3)
 第二に、比較的歴史の浅い大学や、理系や経営学系の学部などを中心に、予め用意された統一的なフォーマットに従った、教官の紹介ページが整備されているところでは、個人ホームページの数が極端に少ない値になることもある、という問題がある。こうした教官紹介ページにおける記述は、大学の自己評価作業の中で編集される研究者総覧の類に準じたものであり、内容も限られている上、何よりも当の本人が作成したページではないのが普通なので、今回の検討では個人ホームページには含まなかった。しかし、こうしたページが、個人ホームページと競合的な関係にあることは明らかに見て取られた。
 一般的に、工学部を典型として理科系の学部では、研究室を中心に物事が動いているため、研究室のホームページから各個人ページへのリンクが張られている。このため、総数を把握する作業は、厳密性を追求すると非常に困難なものとならざるを得ない。しかし、同時に、こうした理系学部を多く抱えている大学では、学生のページは50を越えることが容易に推察できることが多い。今回の作業で、実際に最も時間をとったのは、理系の学部に所属する教職員で個人ホームページをもつ者の概数の把握であった。こうした学部では、統一フォーム方式が普及していると同時に、個人的なページを構築している教員が散発的に存在しているため、<10-49>とすべきか、<50+>とすべきかの判断に、時間を費やすことが多かった。
 人文系の学部で情報教育に積極的なところでは、実習課題として作成させた学生のホームページを大量にリンクしているところが目立った。一方、こうした学生ページについては学内リンクに限定し、外部からは見ることができない大学も多かった。こうした学内限定のページは、ここでは検討対象としていない。学生ページの扱いは、各大学の姿勢が分かれている。

・図書館ページの有無
  ・サービスあり....106
  ・ページあり...... 81
  ・ページなし......128
  ・未確認.......... 1
   (図書館へのリンクはあるが接続できなかった大学)
 広報目的のインターネット利用とは無関係であるが、各大学におけるインターネットの成熟度を判断する材料の一つとして、オンライン検索サービスの有無を含めて図書館ページの概況を検討した。集計結果としては示しにくいが、結果的には、当初の予想通り、インターネットの研究・教育目的での利用に重点を置いている大学と、広報目的での利用に偏っている大学とで、大きなサービス水準の差異が認められた。

■今後の検討に向けて

 今回の検討では、ホームページからたどれる範囲に限って、各大学がインターネットに開示しているページの概況を把握した。しかし、この方法では、多数の部局単位のサーバを持ちながら、大学全体のホームページを設けていないような大学が、検討の対象からはずれてしまう4)。また、大学全体のホームページがあっても、学内にあるすべての公開ページをフォローできるわけではない、という点も認識しておかなければならない。多くの大学ホームページには、「学内のWWWサーバ」といったインデックスのページを設けてホームページから網羅的に各部局のサーバへ行けるようにしているが、中にはこうしたホームページからのリンクを、何らかの事情で張っていないサーバも存在している。特に深刻なのは、ホームページを管理する側が学内の他のサーバへのリンクに消極的な場合である5)。かなりの規模のサイトが存在し、サーチ・エンジンにも多数のページが登録されながら、大学のホームページからはそこに到達しないというのは、あまり感心できた事態ではない。残念ながら、こうした事態は、大学の広報部局が、対外的に開示される情報をある程度まで制御しようとして引き起こしているのではないか、と推察される事例が目立つ。インターネットの本質は、情報の流出を制御しようとするタイプの広報的発想にはなじまないため、こうした試みは中途半端な結果を招いていることが多いようである。
 ホームページを利用した日本の大学の広報活動に関する研究の第一歩として、本稿ではその現状の一端を、概況という形にとどまるものではあるが、計数的に把握することができた。今後は、この成果の上に、大学という組織の広報活動の特徴を踏まえて大学ホームページに求められるサービスや機能について考察すること、そして、実際にある諸大学のページを広報的な視点から評価するための一定の普遍性を持った指標の開発が、次の課題として視野に入ってくるだろう。


 本研究には、1995年度東京経済大学個人研究助成費(PR23-95)「インターネットにおけるホームページを利用した大学の広報活動に関する基礎的研究」を用いた。なお、文中で紹介した「日本の大学・学部一覧」インデックスの作成には、1996年度東京経済大学個人研究助成費(PR25-96)「研究室単位で管理するサーバーの運用実験」の一部を用いた。
 本稿のテキストは、当研究室のページで公開している。(http://camp.ff.tku.ac.jp/YAMADA-KEN/Y-KEN/text.html



1) 例えば、学校法人・福原学園が経営する九州共立大学と九州女子大学は、福原学園(kyukyo-u.ac.jp)のDNSに、それぞれページがある。また、千葉経済大学のページは、系列の短期大学である千葉経済大学短期大学部(chiba-kc.ac.jp)のDNSに存在する。
2) 例えば、聖隷クリストファー看護大学(http://www.habi.or.jp/seirei-gkn/daigaku_j.html)、大阪経済法科大学(http://www3.meshnet.or.jp/OUEL/)などは、プロバイダに大学の公式ページを構築している。
 また、本稿では考察の対象としていないが、大学が直接運営しているページ以外にも、広報という観点から重要なページが、大学のDNS外にある場合もある。具体的には、行政などが提供する地域情報の中で大学の概要が紹介されている場合や、広告代理店等が設けたサイトで複数の大学がまとめて紹介されているような場合がこれに当たる。前者の例としては、北九州市が設けている、市内および対岸の下関市内の大学を紹介するページ(http://www.city.kitakyushu.jp/univ/index.htm)が挙げられる。また、後者の例としては、東京12大学協議会に参加する大学を紹介するページ(http://www.o-two.co.jp/12daigaku/)が挙げられる。
 大学本体がホームページを設けていない場合には、学生や教員などが一般のプロバイダの上にもっている非公式のページが、ホームページに準じるものとして各種のインデックスに採録されている場合がある。女子美術大学の学生による「マッハJ」(http://www.marinet.or.jp/ac/joshibi/)、駒澤大学の同窓生によるページ(http://www.jah.or.jp/~orange/)、教員個人名義のプロバイダ接続ながら公式的な色彩の濃い日本獣医畜産大学獣医臨床病理教室のページ(http://www2d.meshnet.or.jp/~nakatsu/cp.html)などは、大学自体のページがないために、多くのインデックスに採録されている。
3) 例えば、(http://www.notredame.ac.jp/Other/FAQ/www-history-j.htmlの記述によると)ノートルダム女子大学では、1995年3月11日から学生の個人ページが公開されていることになっているが、現在、大学のホームページからたどれる学生の個人ページはない。同じサイトにある「プレスの方へのお願い」(http://www.notredame.ac.jp/Other/press-j.html)から察するに、トラブルを恐れてリンクを設けていないものと思われる。
4) 例えば、Yahoo! Japan などのサーチ・エンジンで検索をかければ明らかなように、一橋大学(hit-u.ac.jp)のDNSには、多数のサーバが存在するが、全体を代表する公式ホームページは存在しない。
5) 例えば、東京都立大学のホームページ(http://www.metro-u.ac.jp/)からたどれるページは少なく、学内のページへのリンクも、ほとんど工事中の工学部だけに張られているが、他方では理学部(http://www.sci.metro-u.ac.jp)が独自の、より大規模のサイトを構築している。しかも、Yahoo! Japan で検索すると、前者はヒットせず、後者のみがヒットする状態である。理学部から大学全体のページへのリンクはあるが、逆はないため、DNSを頼りにアクセスすると、実際には大きな存在である理学部にたどり着かないことになる。今回の作業では、東京都立大学について理学部のサイトは検討対象外となっている。
 また、学長室企画調整課が運営する東海大学のホームページ(http://www.u-tokai.ac.jp/)からは、各部局のサーバへのリンクはいっさい張られていない。このホームページを中心とするサイトは、純粋にパンフレットのウェッブ版といった趣である。しかし、東海大学の学内には多数のサーバが存在し、サーチ・エンジンにも登録されているし、例えば、工学部通信工学科のサイト(http://www.et.u-tokai.ac.jp/)には、学内サーバのインデックスのページがある。今回の作業で検討対象とした範囲は、実際には東海大学のDNS全体の数十分の一にも満たない範囲だと推察される。



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