書籍の分担執筆(項目,コラムなど,論文形式以外のもの):1991:
高橋アキ/ハイパー・ビートルズ.
キーワード事典編集部,編 『キーワード事典・クラシックの快楽CDスペシャル vol.1』洋泉社,p254.
掲出に際して訂正した部分は青字としました。
この文章を収めた『キーワード事典・クラシックの快楽CDスペシャル vol.1』は、既に絶版となっております。
高橋アキ
ハイパー・ビートルズ
高橋アキ(pf)
ビートルズと実験音楽の「出会い」をめぐって
ピアニスト高橋アキのために、ビートルズの曲を内外の実験音楽家が料理する、という企画モノであるが、現代の実験音楽に馴染みの薄い聴き手にとっては、ある意味では絶好の入門盤となっている。ラファエル・モステルの組曲(1)〜(4)(特に「ブラックバード(2)、「ノルウェーの森」(3))は、ピアノが「打楽器」であることを再認識させる響きが散りばめられ、原曲に忠実な編曲ながら新鮮な印象が残る。
アルヴィン・カラン編曲の「ホエン・アイム・シックスティーフォー」(6)は、オクターブを跳ね回るメロディ、踏切の信号待ちのような前半、ワイルドな即興の後半と、原曲の解体作業をユーモラスにやってのけている。そのユーモアの分、その前に収められた三宅榛名編曲の「イエスタデイ」(5)は損をしている。特に初心者には、カランの(6)や松平頼暁編曲の「アンド・アイ・ラヴ」(10)のように調性にも敬意(?)を払いつつユーモアを武器に疾走する手法の方が受け入れやすいだろう。
ジョン・ケージ編曲の「ザ・ビートルズ1962-1970」(8)は、無数のビートルズ曲から印象的なフレーズをコラージュし、ピアノ6台分の多重録音で構築した作品で、ニューヨークの交通渋滞を思わせる奇妙な楽しさに溢れている。ある意味では、ビートルズの曲の「力」を最も強烈に再認識させる作品である。この曲の著作権使用料の計算ってどうなるんだろう?
カール・ストーン編曲の「シー・セッド・シー・セッド」(11)は、このアルバムで最も美しい曲ではなかろうか。まるで練習曲のような音符の刻み方の背後には、歯切れの良い響きと心地よさが隠れている。
ピーター・ガーランド編曲の「悲しみをぶっとばせ」(14)は、原題の意「身を隠してしまえ」に結びつけ、メッセージ色をむき出しにした天安門事件への鎮魂歌である。戯画的とも感じられる構成で、同時代への強い訴求力を持ち得る作品であろう。
同様にフレデリック・ジェフスキー編曲の「平和を我等に」(15)は、いかにもアルバムの終曲にふさわしい完成度の高いオーソドックスな力作になっている。やや古風な印象も免れないが、これまた間違いなく美しい曲である。
ところで、羽田健太郎編曲の「サムシング」(7)は、カラオケにして歌えば間違いなくイイ気分になれそうな仕上がりだ。歌に自身のある方はぜひお試しを。
■オムニバス
◆高橋アキ:ハイパー・ビートルズ
高橋アキ(pf)
●To- イースト・ワールド
TOCE6233(90)
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