学内文書等の記事:1988:

山口文憲『香港世界』.

読書のすすめ,松商学園短期大学,1988.05.,p17.



山口文憲『香港世界』

山 田 晴 通  


 読書を勧める一文を書けという依頼なのだが、大げさな議論をするのも疲れるので、割合におもしろく、読みやすい本を一冊紹介して代えることにしたい。
 香港ほど日本人にとって身近な海外旅行先はない。政治的事情などで韓国や台湾・中国本土に自由な渡航ができなかった時代から、英国植民地の自由貿易港・香港は(ハワイと並んで)日本に最も近い「外国」だった。今では西城秀樹や安全地帯が香港でもコンサートを開くが、かつてはクレージー・キャッツが香港を舞台に映画を撮ったこともあった。日本人は昔から香港にはしょっちゅう出かけていたわけだ。
 日本人が行くだけでなく、香港からもいろいろなものが日本に入ってきた。安い衣料品やおもちゃと一緒に、ブルース・リーのカンフー映画が入ってきた。陳美齢ことアグネス・チャンもやってきた(お姉さんのアイリーンも来てたけど)。最近ではジャッキー・チェンたちが日本を舞台に映画を撮ったし、カンフーのあとはキョンシー・ブームである。
 ところが、このような付き合いでありながら、香港という社会の素顔は日本では紹介される機会が少ない。香港人がどんな生活をしているのか、何を食べ、何を考えているのか。そうしたことを的確に語れる人や本は少ない。買い物とか食事とか、観光客の目からみた香港についての詳しいガイドはあるが、そこから香港が生み出すエネルギーの正体や仕組みを知ることはできない。
 山口文憲のこの本は、ごく自然に香港の素顔を見せてくれる。彼は香港生活体験を新鮮な感覚で力むことなく丹念に綴っている。その軽妙でしゃれた文体は、香港という不思議な土地のこと、漢民族というシブトイ人々のことを魅力的に語りかけてくる。香港にいったことのある人はもちろん、そうでない人にも香港について知りたいと思っている人にも、ただおもしろい読物を読んでみたいという人にも、ぜひ一読を勧めたい。



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