2011c:12/3:発表要旨
音楽関係の小規模展示施設の立地と観光資源としての可能性.
経済地理学会・北東支部例会(秋田県民会館ジョイナス)
要旨:経済地理学年報(経済地理学会),58-1,pp.58-59.
山田晴通:音楽関係の小規模展示施設の立地と観光資源としての可能性
報告者は2010年度から、米国におけるポピュラー音楽関係の博物館等展示施設を研究対象としてフィールドワークを重ねており、特に、こうした施設のローカル・アイデンティティを軸とした正統性や、経営の存立基盤について検討を進めている。その知見を踏まえて米国におけるこうした施設の状況を概観すると、おおむね施設の規模に沿う形で、3類型を見出すことができる。(山田,2012)
小規模施設のほとんどが含まれる類型Iに属する施設においては、施設自体が歴史的意義のある史跡(個人の住宅や、録音スタジオ跡など)であることが、その正統性を保証しており、展示においては案内者が果たす役割が大きい。(山田,2011:2012)
一方、日本においては、米国の類型を当てはめれば、音楽関係の博物館等展示施設のほとんどが、小規模施設に分類されることになる。しかし、日本の小規模展示施設は、米国における類型Iに認められた共通する特徴が、まったく当てはまらない。
音楽文化に関係する特定の歴史的人物の居宅を展示施設としている例はごく少数にとどまっており、スタジオ跡が展示施設となっている例は皆無である。また、案内者が詳細な解説を加えるような形での展示の紹介は一般的にはなっていない。また、日本では、立地の正統性が希薄な展示施設の例が少なからずあり、都市としては特定の人物と関係がある場合でも、施設の立地自体は必然性、正統性を欠いている例も多い。
日本の小規模施設の多くは、脆弱な財政基盤によって辛うじて成立しているものや、公的支援に支えられているものがほとんどである。そうした中で、例外的に観光対象として経営的にも成功している施設の事例をみると、他の(必ずしも音楽関係ではない)観光施設との連携によって、入館者数を積み上げていることが示唆される。一方、米国の施設の事例では、他の音楽関係施設や近傍の関連史跡などとの連続性を演出する取り組みが様々な形でなされている。
近年の日本においては、観光産業の振興が政策論的観点から重視されるようになっている。そうした文脈の中で、今後、政策的な観点から既存の小規模施設の観光資源としての価値を高めていくためには、孤立した展示施設としてではなく、ネットワークの一環となることが課題となろう。
(東京経済大学)
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