2007:
新聞週間に想う.
市民タイムス(松本市),新聞週間特集,2007/10/14.


新聞週間に想う

                東京経済大学教授   山田 晴通


 今年も「新聞週間」がめぐってきた。例年この時期には、日本新聞協会を中心に、様々な関連行事が各地で行われる。例えば、東京、名古屋、大阪、福岡では、一般向けの講演会が開催される。また、年に一度、全国の新聞業界関係者が集う「新聞大会」が開催されるのもこの時期で、新聞協会賞、新聞文化賞などの授与式もそこで執り行われる。
 新聞週間は一九四八年に始まった。実に五十九年前のことだ。最初の新聞週間の標語は「あなたは自由を守れ、新聞はあなたを守る」という、当然ではあるが、今の感覚からすればずいぶんと無骨なものだった。それに対して、「新聞で見つめる社会、見つけるあした」という今年の標語は、ずいぶんソフトというか、ぬるま湯に浸かったような感じだが、これも、今が豊かで幸福な時代にあることを反映しているのだろうか。ちなみに、一九四六年の協会設立時に加盟紙の行動指針として制定された旧新聞倫理綱領と、二〇〇〇年に改定された現在の新聞倫理綱領を読み比べても、同じような印象が強く残る。
 新聞大会の開催地は、毎年、各地を巡回しているが、第六十回大会となる今年は、長野市が会場となる。長野県では、「信濃毎日新聞」、「長野日報」、「南信州」、そして「市民タイムス」の四紙が協会加盟紙で、加えて信越放送が協会会員となっている。ひとつの県に会員が五社あるというのは、府県別の会員数が、東京、大阪、愛知、北海道に次いで全国五番目であることを意味している。これも、長野県民が昔から「新聞好き」で、熱心に新聞を読み、真摯な報道姿勢をマス・メディアに求めてきたことの反映であろう。第六十回という節目の新聞大会の開催地として、長野県はまことにふさわしい場所だと、県民読者は胸を張ってよい。
 今、新聞業界は、インターネットの浸透や、単身世帯の増加、その他の事情の中で、大きな曲がり角を迎えつつある。もっと直截に、「新聞の危機」という人もいる。これは、紙に印刷した新聞を配達するというビジネス・モデルが、限界に来ている、といった議論でも言われることだが、むしろ、一般読者の間に、新聞への不信感が広がってきていることを、深刻な危機と捉える議論が目立っているように思う。
 そうした中で、「市民タイムス」のような地域紙には、元気のある社が少なくない。地域紙は、インターネットに縁遠い高齢者や子供にも手が届く。自宅ばかりでなく、役場や銀行のロビーや、理髪店や喫茶店など、地域のあちこちで手に取ることができる。
 そうした身近な媒体として地域に密着し、読者の日常生活の延長線上で、しっかりとした真摯な議論の場を提供していくという地域紙の使命は、地方分権化が進む時代に、いよいよ大きくなってきている。地域紙の活躍は、その地域の活性化を促す。「市民タイムス」の頑張りが、松本平のより良い明日への手がかりとなることを、期待していきたい。
 (松本大学非常勤講師兼任 安曇野市在住)


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