2003:
読者が育てる地域紙.
市民タイムス(松本市),新聞週間特集,2003/10/15.
読者が育てる地域紙
山田 晴通
新聞にはいろいろな種類がある。スポーツ新聞や英字新聞、各種の業界紙など、ひとくちに新聞といっても多様な形態があるが、おもに時事を報道する一般日刊紙に限ってみても、全国紙、ブロック紙、県紙、地域紙と、規模の違う数グループが存在する。全国紙各紙の紙面内容をブロック紙「中日新聞」を比べたり、県紙「信濃毎日新聞」と比べてみれば、紙面作りの違いがみえてくる。さらに、そうした県紙以上の規模の新聞と「市民タイムス」を比べれば、地域紙がどのような役割と使命の下で報道活動を展開しているのかが容易に察せられる。詳しく述べるまでもなく、地域紙は、日常生活に結びついた、手を伸ばせば届くような範囲の地域社会について、私たち読者へニュースや話題を届け、生活に密着した問題を提起し、自ら地域づくりにも参画しながら、地域の日々の姿を後世に残すという役割を担っている。
しかし、地域紙は、どこにでもあるわけではない。日刊地域紙は、長野県内では各地にあるが、全国的にみれば存在しているところの方が少ない。松本でも、「市民タイムス」の創刊前には、日刊地域紙が存在しない時代もあった。地域内にいるとあまり意識しないが、松本平は、地域紙、県紙、ブロック紙、全国紙がすべて購読可能な、全国的にみても類例が多くない地域の一つである。それだけ、新聞間の競争も激しいのだが、見方を変えれば、新聞がそれだけ読まれている地域でもある。松本平では、戦前・戦後を通じ、歴史的にも幾多の新聞が興亡してきた。他地域から進出してくる全国紙などにせよ、地元で活動を始めた地域紙にせよ、それを支えてきたのは、新聞を読み比べ、社会的視野を広めようとしてきた、地域の読者に他ならない。
どんな新聞でも、個々の新聞社が志を立て、それを世に問う形で新聞を発行し、その志に共感する読者が新聞を購読して、あるいは広告等を出稿して、新聞を支えようとする、という図式は今も昔も変わりがない。志を世に問うなどというと、なにやら政論新聞めいた時代錯誤と思われるかもしれないが、地域内の細かい情報を、地域の立場で伝えていくという地域紙の原点にある考え方は、それ自体が十分に立派な志である。新聞が地域の人々を「読者」として組織していくのだとすれば、いったん組織された「読者」は、様々な形で自分たちの見解を新聞社に送り返し、新聞の内容に少しずつ影響を与えていく。「新聞が読者をつくる」とともに、成熟した段階では「読者が新聞をつくる」ようにもなる。
読者に開かれ、社会に開かれ、地域とともに前進する新聞としての初心を忘れないことは、「市民タイムス」のみならず、すべての地域紙にとって何よりも肝要である。そして、私たち読者にとっても、新聞に初心を忘れさせないことは、次代の社会への重要な責務なのである。
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