翻訳:2002b:
D.C.マーシャル,R.G.V.ベイカー
クラブ,スペード,ダイヤ,恵まれない立場−メルボルンにおける電子ゲーム機[ポーカー賭博機]の地理−.
地理科学(地理科学学会),57,pp120-137.
原著 Marshall, D.C. & Baker, R.G.V. (2001): Clubs, Spades, Diamonds, and Disadvantage: the Geography of Electronic Gaming Machines in Melbourne. Australian Geographical Studies, 39, pp.17-33.


クラブ,スペード,ダイヤ,恵まれない立場:
メルボルンにおける電子ゲーム機[ポーカー賭博機]の地理

D.C.マーシャル,R.G.V.ベイカー

(山田 晴通・訳)

 翻訳については、著作権等に配慮し訳文は掲出しておりません。
 ここでは、訳者=山田=による解題と、関連リンク集を公開します。
 訳者解題のウェブ上への掲出に際しては、『地理科学』を刊行している地理科学学会より、2002年5月29日付でご承諾をいただきました。ご理解いただいたことに感謝いたします。(2002.06.04.)


訳者解題

 ここに訳出したのは,Marshall, D.C. and Baker, R.G.V. (2001): Clubs, Spades, Diamonds and Disadvantage: the Geography of Electronic Gaming Machines in Melbourne. Australian Geographical Studies, 39, pp.17-33. の全文である。第一著者マーシャルは大学院学生,第二著者ベイカーは上級講師(Senior Lecturer)としてニュー・イングランド大学(the University of New England, Armidale)人間環境学部(School of Human and Environmental Studies)に所属している。
 十年足らずの短期間で一挙に広く普及し,今ではポーキーという愛称でオーストラリア人に親しい存在となっているポーカー賭博機だが,その悪影響への懸念も様々な形で聞かれるようになっている(例えば,導入後,パブでの演奏の仕事が減り,音楽家たちの収入が減っているという報告もある)。本稿は,地理学の立場から,この新しい社会問題に発言していこうとする意欲的な取り組みである。
 賭博の地理などというと,何やら色物めいたものかと思われるかもしれない。しかし,ここに訳出した論文を含む一連の研究成果の中で,著者たちは,ポーカー賭博機が地域の社会生活や経済活動に及ぼしてきた影響を直視し,さらに,その背後にある地域を越えたグローバル化・新自由主義経済の大波を見据えて,具体性をもった批判的議論を展開している。
 新自由主義の広まりとともに,各国においては賭博への規制緩和が進む傾向が見られる。そこでは,新たなサービス業の振興といった論点を主張する事業者,税収源としての賭博産業に期待する各レベルの行政府などに対して,賭博の社会的影響を危惧し,批判する声が当然上がってくる。
 賭博への耽溺が,個人にとっても社会にとっても様々な問題を引き起こすことは改めて述べるまでもない。賭博の振興は新しい経済活動を興すものではなく,他の経済活動や社会活動を衰退させ,地域の経済力を地域外へと流出させる。
 第一著者のマーシャルは前稿(Marshall, 1999)で,こうした理論的展望を示した上で,ポーカー・マシンの導入が、ある小さな町のコミュニティに及ぼした影響を,聞き取りの積み重ねによって描き出した。この作業は,いわば虫の目から,賭博が社会に与える歪みを描き出す取り組みであった。
 これに対し本稿では,大都市圏における電子ゲーム機の分布を,いわば鳥の目で検証することが試みられている。慎重な行論を通して淡々と語られるのは,ポーカー賭博機は経済的に恵まれない人々が生活する地域から貨幣を吸い上げ,社会的格差を拡大する不公正なものだ,という主張である。
 日本では,賭博に関する地理学的議論の蓄積は少ない。また,事実上の賭博産業であるパチンコ産業など一部の娯楽産業についての議論も,管見する範囲では,本稿が示すような議論の射程を持ち得てこなかったように思う。各分野で規制緩和が声高に論じられる今日,日本においても広義の賭博産業についての議論を再構築する必要があるのではないだろうか。
 また,具体的事実の提示と論点の整理によって,研究者としてのアイデンティティを放棄せずに社会的運動へ職能的に関わり,「グローバルに考え,ローカルに行動する」著者たちの姿勢は,我々の多くに,自らの姿勢を問い直す機会を与えることだろう。
 訳出に際して,訳者による注記や,原文に現れていない表現の補足は[ ]に入れて文中で補った。表題の[ ]も訳者による補足である。必要と思われる語彙の英文表記は( )に入れて示している。また,原文が( )の部分も( )で示されている。原論文では,章節に番号が与えられていないので,ここでも番号は付けていない
 なお,Productivity Commission(1999)については,原論文での引用箇所の表示がページ数ではなく,章節番号によっているので,ここでもそれに習った。
 本文中に見られる事項に関連するウェブ・ページへのリンク集は,下記のURLからリンクをたどることができる。
http://camp.ff.tku.ac.jp/YAMADA-KEN/Y-KEN/text.html
 訳稿の発表に際し,翻訳許可を頂戴した原著者,ならびに原論文版権所有者である Institute of Australian Geographers および Blackwell Publishing に,感謝の意を表する。
 この翻訳作業には,2001年度東京経済大学中期国外研究員研究費の一部を用いた。

著作権等に配慮し訳文は掲出しておりません。抜き刷り/コピーをお求めの方は、下記のアドレスまでご連絡ください。
In order to avoid copy rights complications, translated Japanese texts are not given on the web. If you are interested in the Japanese tranlation of the text mentioned on this page, please contact the translater at:
yamada@tku.ac.jp





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