コラム,記事等(学会誌等に寄稿されたもの):
2001:
日本ポピュラー音楽学会『JASPM Newsletter』への寄稿.

「IASPM見聞録」

 学会創設から二十周年という記念すべき大会となった第11回国際ポピュラー音楽学会(IASPM)大会は、7月上旬、フィンランドの古都トゥルクで開催された。私はこれまでIASPM-Japanのメンバーではあっても、あまり積極的な方ではなく、大会も1997年の金沢大会しか参加したことがなかった。隔年開催となっているIASPMの大会は、7月上旬に、丸々一週間ほど行われることが多く、夏休み前の前期試験直前で、授業を持っている立場としてはちょっと参加しづらい。しかし、今年は研究休暇(サバティカル)の年に当たっていて比較的自由が利くので、参加してみようと思い立ったのである。
 大会の日程を詳しく追うのは紙幅の都合で難しいので、詳しくは文末のURLを紹介する関連ページを参照されたい。大会期間中は、主会場であるトゥルク大学で、毎日朝の9時過ぎからプログラムが組まれ、個人発表やラウンドテーブルのセッションが午前中に二つ、午後に二つ設けられていた。その合い間には、お茶や昼食の時間があり、いずれも立食パーティー形式で豊富に食料がサービスされる。5時過ぎにセッションはひと通り終わるが、クルーズ・パーティーのあった最終日を除いては、毎日6時から、主会場から歩いて10分足らずのシベリウス博物館を会場に、北欧各国のポピュラー音楽事情についての2時間のレクチャーがあった。
 また、午後9時頃からは中心部のビアホールや、ライブハウスでパフォーマンス・イベントが行事として組まれていて、興味深い様々なパフォーマンスを見る機会に恵まれた。主だった参加者のほとんどは、毎日ビアガーデンに集まって夜中までひたすら語り合い、まだ元気のある人たちはさらに深夜までバーを回るという流れである。これは、夜中の12時くらいから4時くらいまでしか夜らしくないという、長い昼のせいもある。もちろん参加者全員がすべての行事に参加していたわけではないが、若い人たちは非常にタフに各種の行事に参加していたし、私と同年輩以上の参加者たちも、北欧の長い一日を大いに楽しんでいた。
 個々の研究発表やラウンドテーブルには、勉強になるもの、楽しいもの、考えさせられるものといろいろあったが、最も印象に残ったのは、大会三日目の夜に、いつものビアホールで行われた「ファウンダ―ズ・イベント」であった。IASPMが創設された時の委員だったポール・オリバーとフィリップ・タグが、それぞれ人柄のよく出たスピーチをしたのだが、飄々としたポール・オリバーの回顧談に続いて、メモを片手にフィリップ・タグが行った演説は、ユーモアを交えながらも辛らつにIASPMの現状を分析したものだった。
 彼によれば、IASPMは、国際性、民主的運営、研究者と実務者の交流を旗印に活動を進めてきたはずだが、この二十年を総括すると、前二者では「良」、三つ目については音楽の現場に身を置く人々の関与が後退しているのではないかと思われるので、やっと「可」にしかならないだろう、というのである。ポピュラー音楽研究の、学問としての「制度化」が進む中で、これが難しい課題であることは言うまでもない。これは、JASPMにとっても同じであろう。
 今大会に参加したのは、およそ200人。日本からの発表者は6人だった。しかし、宇城さん、吉光さんはそれぞれ二日間、松田さんは最終日の一日だけしか参加できなかったので、期間中ずっといたのは、小川さん、瀬山さんと私だけだった。国際学会では、発表をすることは大切だし、実績を残すという意味では大きい。しかし、他の発表を聞いたり、セッション以外の場で、例えばビールを酌み交わしながら、議論し、情報交換していくところに、はるかに大きな実質的意義がある。
 私個人としては、今大会に参加して、多くの研究者と面識を持てたことは大きな財産となった。しかし、同時に、このような場に出てくるのが「十年以上遅かった」というギャップも強く感じた。もちろん語学力も含めたコミュニケーション能力のハンデはあるが、それ以上に、ある種の壁を感じたのである。同年輩以上の人々と話していると、彼らの間にある共有された経験の蓄積の大きさをひしひしと感じる。一方で、若い人々と交流する機会も数多くあるのだが、学問的な事柄以外の親しさのような部分も含めて、感性についてゆききれない部分は大きい。やはり、こうした国際的な場で感性を磨くためには、30歳前後くらいまでに最初の一歩を踏み出さなければならないのだろう。
 次回の大会は、2003年にカナダのモントリオールで開催される。私もぜひ参加したいが、同時に、若い諸君にも、参加を積極的に呼びかけてゆきたい。



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