倫理学を担当している専任と非専任の教員何人かと知り合いだが、ある一人から「しかし、非常勤講師が来年から来なくていいと言われたら、それをやめさせることは出来ないでしょう?」と訊かれた。まず法律の先生に出ていただくと、パートと呼ぼうが非常勤と呼ぼうが労基法上の労働者であり、解雇に当たっては解雇の必要性を客観的に証明する、実際に解雇回避の努力をする、時期・規模などについて労資間で協議するなどの要件が満たされなければ解雇できないのである。それに解雇する人を選ぶ場合にもパートと呼んでいるからとといってパートから先に解雇することは出来ない。こうした労働法の知識はぜひ必要である。店長がアルバイト店員に「来月から来なくていい」と言ったぐらいでは全然解雇される必要はない。労働法を知らないとアルバイトだからやめなくてはならないように思ってしまうだけだ。都立足立西高校のように高校生にも労働法を教えなければいけない。
では法律がなんでも正しいのか?裁判の判決がいつでも正義か?という問題になると今度は倫理学の先生に出てもらいたい。ところが先の知人は、倫理を教えていても学生たちを結局「ただのいい子」にしているだけでないのか、つまり結局現状の追認にしかならないような考え方を教えているだけではないか?と無力感を感じて悩んでいるのだ。彼を非難しているのではない。僕らも労働法なんて知らなかった。しかし、一緒に法律も勉強してゆこう、現実の具体的問題にどうして行くべきか答えられる倫理学を考えていこうと悩もうということはお互い了解できることだ。
城陽郵便局非常勤職員奥田美紀さん他二人は不利な扱いを受け、「雇用期間満了」による解雇通知を言い渡されたことで、裁判でも争っている。団交では局長は一人の労働者を解雇することがその人にとって生存する権利を脅かす重大なことなのだという認識に欠け、「経費削減という大義」の前には非常勤ならば解雇されても当然という態度であった。「コスト削減がなにものにもまして優先される」という意識はいつからでてきたのだろうか。
さて、学生からマコリンと呼ばれ(漫画の「まことちゃん」に何が似ているのか分からないが、確かに何かが似ている)親しまれてきた吉田誠先生は昨年急に「期限が満了します」という通知を受け取った。なんら解雇の正当な理由はない。その前の年度末に、来年度の仕事の手はずまで話し合ってあったのに、同僚の非常勤講師が雇い止め通知を受けたので、どうしてそんなことするのかと問いただしに行ったそうだが、そんなことは教学の担い手として当然のことだ。これも裁判になっているが、裁判に勝とうが負けようが、そんなことに関係なく倫理からいえば吉田さんの職場復帰がなされるべきなのは自明である。だからこういう雇い止め問題は、裁判に勝つ・負けるは二の次で、とにかくどんどん提訴して争うべきだと思う。
3月26日の「吉田誠さんを復職させる会」結成大会では教え子さんも含めて会場満席であった。じきに裁判が始まるので法学部の学生などにも傍聴を勧めてやろう。
吉田さんが2月28日の組合総会に来られてお話されたことを紹介しておく。(福田)
[学校の概要]私は奈良橿原にある奈良芸術短期大学で染織コースの織物実習非常勤講師として1991年より6年間勤務してきました。経営母体の学校法人聖心学園はこの短大のほか保育園、橿原学園高校を持っています。短大は、理事長平田静太朗が学長を兼務しています。教授、助教授、専任講師、いわゆる専任と呼ばれるのは28名、事務職員は13名、学生上がりの副手が11名、後は非常勤講師が81名です。学生数は、1、2回生、専攻科をいれて全校で600人程度です。教員数の内訳でもわかるように、講座の4分の3は非常勤が担当している状態で、非常勤に頼らざるをえないのです。もちろん組合はなく、教授会もありません。代わりに教員連絡会と、各コースの主任会議というのがあります。
[私の勤務]私は当時同大学の染織コースの非常勤講師であった友人の誘いで、1991年4月1日付で染織コース非常勤講師として委嘱する辞令書を受け取りました。もともと雇用契約書というものはなく、毎年入学式の後懇親会で渡される学校の予定表や履修要項と共に入っている辞令書を受け取るだけで、改めて契約書というのは交わしていません。大学では、染織コースの織物担当として始めの1年は2日、1時間半の枠で6コマ、以降は3日10コマを担当しました。織物の担当は、5年間は3名、昨年1名辞めて2人はいって4名で担当していました。すべて非常勤講師です。その中で担当時間数の多い私を中心に年間授業の計画などを作成し来ました。
それぞれ講師も専門分野があり、着物、平面、立体と分かれていました。私は立体を担当していました。こうして6年間続いてきました。
[雇い止めの通知]1997年2月23日東京に展覧会の打ち合わせに行って帰って来ると、「あなたは、きたる3月31日非常勤講師の期限が到来致しますのでご承知下さい。」との文面で2月20日付の書面が届きました。突然の内容に対してあっけにとられました。もう卒業式を残して春休みの期間に入っているこの時期、来年度の授業内容もほぼ打ち合わせてあるのにこれはどうした訳なのかと、びっくりしました。
[交渉経過と大学の主張]そこで、私は奈良県労働組合連合会(奈労連)に相談し、奈労連一般組合に加盟しここから辞める意志のないことを通知して、大学に交渉を申し入れました。その結果2回の交渉を持ちました。
大学の主張は、入学学生の減少、契約期限がきたからというのが大学側の主な言い分でした。しかし、学生数はここ3年変わっていないのです。
そして2回の交渉で債務者が提示してきたのは、いままで非常勤講師とは交わしたことのない非常勤講師契約書なる特別なもので、その内容は、更新の契約をして昨年並の給料を一括払いするが、期限が切れるとともに必ず退職し、大学にはいっさい出校するなというもので、これは最終提案であるというものでした。このような契約書を私だけに適用することは、その根拠となるものがいかに整合性を持っていないか、余りにも不当な扱いをしているかを露呈するものであるといえます。
そして、余りの不当な扱いにそれを拒否すると、その契約書も撤回し非常勤講師の地位も失った旨の通知を一方的に送りつけてきて、以後交渉を打ち切ってしまったのです。
そこで、地方労働委員会に「斡旋」を申請しました。地労委の3人の委員ともが、「この件に関して誠実な交渉をするべきだ」との回答をしました。この後、2回交渉をしましたが、大学側は以前と同じく言を左右して明確な回答をせず、またもや交渉拒否をしました。
そして、11月になって大学は、「雇用関係不存在確認請求」という裁判を奈良地裁に提訴しました。(吉田さんをもう雇っていないことを認めて欲しいという珍しいタイプの提訴です)
[この裁判の意義と今後の展開]誠実に学生に接し、熱心に授業をやってきたつもりです。それをこのような形で、何の事前通告もなしに、使い捨てのように解雇(雇い止め)をしておいて、なおかつ、雇用関係が存在しないという裁判にまで訴える。これで有無を言わさず力任せに押さえ込もうとする。これは数の上からも内容の上からもこの大学が、非常勤講師に頼らざるをえない現状でありながら非常勤講師をないがしろにし、その立場を軽んじ、ふみにじっているかをしめしている。そのような大学の姿勢に怒りを禁じえないのです。強者である大学が、不安定雇用で何ら保証もない弱者である一非常勤講師を裁判で訴える。このような理不尽で不当なことが許されていいのでしょうか。この裁判は、私やこの大学にいる非常勤講師の方々にとっては勿論の事、全非常勤講師に関わる重要な裁判であると考えています。
そこで、奈労連、大私連、その他私の仲間などが集まって、「吉田誠さんを奈良芸短に復職させる会」を3月26日に結成し、この裁判に対してこれを母体にして運動し、支援の輪を広げていくことになりました。もうすでに裁判は始まっています。1月26日に第1回公判が始まりました。第1回の公判にはたくさんの支援の人たちが傍聴に参加してくれました。第2回公判は5月に開かれます。多くの参加をお願いします。前述したようにこの裁判は、全非常勤講師に関わる重要な裁判であると位置づけて広く多くの人たちと連帯しながら戦っていきたいと思っています。皆さんのご支援をお願いします。
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