業績外:1996:

特別講義「ポピュラー音楽史概説」の概説

東京経済大学報,29-3,pp4〜7.


お知らせ
 このページでは、東京経済大学の広報紙に取り上げられた上記の記事全文を掲出しておりましたが、2003年5月22日付で、この文章の全文公開を中止し、部分的な公開に移行しました。
 これは、上記の記事を基に、大幅な加筆修正をおこなって原稿をまとめ、東谷護・編著『ポピュラー音楽へのまなざし』(勁草書房、2003)の一つの章として公刊したことを受けての措置です。上記の記事にご関心をお持ちの方は、『ポピュラー音楽へのまなざし』所収の方を決定版としてご参照いただくようお願い申し上げます。

特別講義「ポピュラー音楽史概説」の概説


 筆者の本来の担当科目は、「地域のコミュニケーション」など、コミュニケーション論関係の科目なのですが、今年度、特別講義として「ポピュラー音楽史概説」の開講を認めていただき、四月から講義をはじめました。通年科目なので、ちょうど前半の講義が終わり、これから後半に入るところです。ここでは、実際の講義内容の一部を、最初の数回分の講義メモをもとに紹介させていただきます。筆者がどういう意図で、どのような視点からこの講義を展開しているのか、その一端でも汲み取って頂ければ幸いです。

ポピュラー音楽とは何か?

 「ポピュラー音楽」という言葉は、誰もが知っていて、何となく意味が判った気になっている言葉ですが、いざ定義をしてみようとすると、実は大変やっかいな概念であることに気がつきます。そもそも様々な音楽ジャンルの間には、中間的な境界領域が、曖昧な形で広がっているので、どのように定義をしたとしても、ポピュラー音楽であるものと、そうではないものとを単純に二分することはできません。また、同じ「ポピュラー音楽」という言葉にも、「広い」意味や、「狭い」意味や、その他諸々の異なる意味あいがあり、文脈によってこの「広がり」が変わったり、ずれていくことがしばしば生じます。ある文脈では、<演歌>をポピュラー音楽とはいえないでしょうし、別の文脈では<演歌>が典型的なポピュラー音楽ということになったりもするのです。これは、<演歌>の代わりに<ジャズ>や<民謡>、その他の音楽ジャンル名を当てはめても、同じようなことでしょう。また、同じ音楽でも、聞き手の立場や状態によって、またその音楽が提供されるメディアや環境によって、ポピュラー音楽になったり、ならなかったりすることもあります。例えば、ワルツ形式のゲーム音楽、エリック・サティのシャンソン、映画のBGMに用いられたワグナーの「ワルキューレの騎行」、ジョン・ゾーンのパンク・ジャズ、等々の事例は、「ポピュラー音楽」を「クラシック音楽」、「民族音楽」、「実験音楽」といった対立概念から峻別することの困難さを浮き彫りにするでしょう。「ポピュラー音楽」という言葉を定義づけようとすると、日常化した言葉の内に潜む、やっかいな側面が立ち現れてくるのです。

<約1000字省略>


大量複製技術と商品化

 さて、諸々のやっかいな議論を通り抜けた上で、「ポピュラー音楽」とは何かを、改めて捉え直そうとするならば、どういった視座が必要でしょうか。音楽学的な側面から、「ポピュラー音楽」を峻別しようとしても、それは無駄な試みです。ここで、一つのたたき台として提示したいのは、「ポピュラー音楽」を社会的広がりに支えられた文化の一形態として捉え、現代という時代性を意識し、コミュニケーション論の枠組みを踏まえた、社会科学的な理解の仕方です。すなわち、<「ポピュラー音楽」とは、大量複製技術を前提とし、大量生産〜流通〜消費される商品として社会の中で機能する音楽であり、とりわけ、こうした大量複製技術の登場以降に確立された様式に則った音楽である>といった形で、ポピュラー音楽を考えて見ることが必要になるわけです。

<約1600字省略>


異種交配と革新

<約1200字省略>

 ポピュラー音楽を、大量複製技術以降に出現した、商品化指向の音楽の諸様式の総称として捉えるならば、その構成要素となる個々の様式は、前・商品的な段階では、一定の文化的、社会的背景の下で醸成されながら、いったん様式として確立されると、そうした背景とは切り離されることで次の展開へとつながっていく、という展開が、しばしば認められます。ポピュラー音楽の歴史を検討していく際には、(楽曲であれ、様式であれ)その音楽が、送り手側のどのような背景、事情の下で生み出され、どのように流通し、受け手側(市場)はそれをどのように受けとめたのかを明らかにしていかなければなりません。要するに、音楽が社会の中でどのように機能したのかを考えていく必要があるのです。その上でなければ、次々と新しい音楽が創造されるポピュラー音楽の姿を的確に捉えていくことはできないでしょう。

 さて、前期の講義では、以上のような問題意識を踏まえて、ニューオリンズからビバップまでを中心としたジャズの歴史、ロックン・ロールのルーツとしてのカントリーとブルース、技術革新と社会現象としてのビートルズといったテーマで講義をしました。後期はビートルズ後のロック音楽の歴史を、ハード・ロック〜ヘヴィ・メタル、プログレ、パンク、といった文脈で考えていきます。冷やかしも歓迎しますので、木曜日の午後六時に、六号館の地下スタジオをのぞいてみて下さい。



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