業績外:コラム:2013:

幽霊会員からひと言.

FM79.7MHz 京都三条ラジオカフェ 市民が主役の放送局 開局10周年,p16.
(開局10周年記念パンフレット=全18ps)



  幽霊会員からひと言

山田晴通(正会員/東京経済大学コミュニケーション学部教授)   


 「ご専門は何ですか?」と問われ、自分でも答が分からなくなって久しい。大学院生として最初に書いた論文は、日刊地域紙の考察だった。最初の勤務先で書いた学位論文の主題は、まだニューメディア扱いだったケーブルテレビであった。地域メディアへの関心は、コミュニティ放送の導入後も続き、2000年に論文を1本書いた。しかし、現在の職場に移った1995年頃から、地域メディアへの関心は徐々に薄らいでいった。そんな自分が、なぜか、地縁もない京都コミュニティ放送の会員になっている。
 2000年から2001年に、国外研究で1年弱オーストラリアに滞在した際、日本とは全く異なる社会環境の中で、非営利組織が運営するコミュニティ放送の存在を知り、強い感銘を受けた。帰国後、研究資金を得て再び渡豪し、論文を1本書いた。この論文は2005年に学会誌に載ったが、京都コミュニティ放送の会員になったのはこの論文を書いていた頃だった。以降、数年に一度、京都三条へ足を運び、滞納分の会費を支払うだけの幽霊会員となった。
 先日、初めて出席した会員総会には、研究者を業(なりわい)とする会員が何人も参加していた。その大半は、他地域の生活者である。これは、日本の社会環境の中でNPO法人が運営するコミュニティ放送が成立するのか、という重大な社会実験に立ち会いたいという研究者の業(ごう)なのか、先進的な取り組みを応援したいという研究者の姿をした活動家の情熱が成せる業(わざ)なのか。おそらくは、その両者が渾然一体となった結果なのだろう。
 京都コミュニティ放送は、こうした「えげつない」視線にも見守られている。主役である地域住民、番組制作にあたる会員にとって、この視線は厄介なものだろう。しかし、その視線が、日本で最初のNPO運営型コミュニティ放送である京都三条ラジオカフェの実践を支える力のひとつとなっているなら、それはそれで意味のあることだ。

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