2012:
特別寄稿・新時代に即した地域紙の使命.
市民タイムス(松本市),2012/05/24.


特別寄稿・新時代に即した地域紙の使命

山田 晴通    



 携帯電話は今や「電話」にとどまらない「ケータイ」や「スマホ」になり、インターネット、デジタルといった言葉も、すっかり身近になった。半世紀前に夢見た、鉄腕アトムが活躍するピカピカの21世紀とはかなり異なる姿だが、情報処理や電気通信の分野はかつての夢想を超える発展を遂げている。
 もはや新聞は、しばしば過去の存在と見なされ、大手紙や有力紙の多くも、部数の頭打ちから減少へと転じる例が目立ちはじめている。他方、インターネットがもたらした新たなコミュニケーションの場が、ツイッターやフェースブックから「ネトゲ(ネットゲーム)」まで、地域社会とは異なる形で人々をつなげて「コミュニティ」を形成しつつある。
 そういう中で、これからの時代に地域紙に求められる役割は何であろう。その答えのひとつは、新時代に対応した技術面の革新である。この20年ほど、情報収集や記事作成、紙面編集の過程や、データベースの構築など技術革新には目を見張るものがあり、地域紙も積極的な取り組みを重ねて来た。デジタル化が進んでも、媒体としての紙がもつ優位性はいろいろあり、記事を印刷して配送するという形態は今後もまだまだ重要であり続けるだろうが、今後は編集・制作面のみならず、読者や広告主など地域社会との関係でも情報化が一層進行していくだろう。地域における情報コンテンツを創出し、その流通を担う地域紙は、技術革新を確実に取り入れていく使命がある。
 しかし同時に、地域紙の原点に、いつの世も変わらない、地域における情報交流の広場としての役割があることも忘れてはならない。インターネット時代にも、身近な地域情報、地元の声は、もっぱら地域紙によって伝えられる部分が大きい。ともすれば当然すぎて見落とされがちな原点の使命を見つめ直し、新時代の技術や社会環境に上手に適応していく努力を重ねることから、地域紙の未来への展望は切り開かれていくことだろう。

(やまだ・はるみち 東京経済大学教授、松本大学非常勤講師=安曇野市)




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