雑誌論文(その他):2001:神谷浩夫,金 木斗 哲,許 宇亘と連名

富山県山田村のコンピュータ利用状況調査(速報資料).

地理学報告(愛知教育大学),92,pp44-49.



 掲出に際して、明らかな誤りは訂正し、その部分を青字としました。
 原論文には、図が6枚、表が18枚掲載されていますが、ブラウザの設定等によっては図は見にくいかもしれません。その場合は、クリックして元のgifファイルをご覧下さい。
 また、原論文掲載の図に誤りがあった図3は、新たに作成し直しています。(2001.07.01.)

富山県山田村のコンピュータ利用状況調査(速報資料)

I はじめに
II 山田村の概況と調査方法
III 調査結果


富山県山田村のコンピュータ利用状況調査

(速報資料)


神谷浩夫(金沢大学)・山田晴通(東京経済大学)・金 木斗 哲(岡山大学)・許 宇亘(ソウル大学)


I はじめに

 本稿は、昨年11月に富山県山田村で実施した村民のコンピュータ利用状況調査の第1次集計をとりまとめて、速報として報告するものである。国家プロジェクトとしてITが推進されている昨今、村をあげて情報化に取り組んでいる富山県山田村の事例は、今後の日本における情報化施策にとって重要な意味を持つと思われるため、調査の単純集計結果だけでもできるだけ迅速に報告することも重要である。さらに詳しい分析や考察を今後順次進め、公表して行く予定である。
 山田村の情報化は、1995年に中学校から村に出されたパソコン通信をしたいという要望をきっかけに、同年に国土庁から「地域情報交流拠点施設設備モデル事業」の指定を受けることから始まった。1996年には希望する世帯にパソコンが配られ、それ以降、役場の情報センターの講習や各地区のボランティアであるパソコンリーダー、学生ボランティアからなる「お助け隊」などの活動によって普及が図られてきた。富山県山田村は村民における情報化のモデルケースとしてマスコミから大きな注目を集めてきたが、それは各世帯に1台のパソコンが貸与されたという村全体を巻き込んだ取り組みであったからである。今回のアンケート調査は、パソコンが貸与されてから4年余りが経過した現在、山田村の村民がその程度パソコンを活用しているのかの現状を把握することを目的として実施した。


II 山田村の概況と調査方法


 2000年度の国勢調査速報値によれば、山田村は人口が2,037人、世帯数は461世帯である。山田村の人口推移を見ると、戦後から一貫して減少傾向を示している(図1)。また老年人口(65歳以上人口割合)は24.6%であり、(2000年4月現在の住民基本台帳による)、過疎化が進展している地域と言える。しかし県庁所在地である富山市から道路距離で約22kmの位置にあり、車で約50分ほどで富山市中心部に行くことができる。そのため富山市まで十分に通勤が可能であり、奥地山村というよりも中山間地域と位置づけることができる。15歳以上就業者1,201人のうち村外に通勤する人は501人であり、その内訳は富山市が202人、次いで婦中町が124人、八尾町が36人となっている(1990年国勢調査による)。つまり、村内に存在する全就業者の約3割が、これら3市町に通勤していることになる。そのため、全農家数は350戸を数えるが、専業農家は13戸、第1種兼業農家も5戸にすぎず(1990年世界農林業センサスによる)、通勤兼業が一般的であると言える。村内には大規模な事業所は存在せず、中小の小売・サービス業と建設業、製造業の事業所と役場関連の事業所が主な雇用先となっている。
 調査は2000年10月〜11月にかけて実施した。10月中旬に村役場を通じて各地区の総代に調査票の配布を依頼した。調査票の記入は世帯のうちでパソコンに最も詳しい人に依頼し、記入済みの調査票は11月2日〜5日にかけて金沢大学の学生が各世帯を訪問し回収した。回収時には、調査票に記入漏れがないように可能な限りチェックを行なった。
表1 調査対象世帯
地区名調査対象
世帯数
鍋谷4
4
若土22
鎌倉12
小谷10
赤目谷10
北山3
37
中村47
小島25
上中瀬16
中瀬29
白井谷13
沼又15
10
清水24
今山田10
宿坊23
沢連24
柳川15
城山8
竹の内29
不明1
合計391

III 調査結果



1. PC利用の全般的状況
 2000年4月現在の住民基本台帳に基づく451世帯のうち、不在や回答拒否を除いた391世帯から回答が得られた(有効回答率86.7%)。地区ごとの回答世帯率は、表1に示されている。有効回答が得られた391世帯のうち、PCを保有する世帯は344世帯(88.0%)であった。そのうち256世帯(74.4%)がPCを利用し、88世帯が利用していない(25.6%)。PCを保有しない世帯も分母に含めた場合、村の世帯のうち65.5%がPCを活用しているという計算になる(図2)。
 まず調査対象世帯の属性を概観しておきたい。調査対象となった世帯の平均世帯人員は4.2人であった(表2)。この数は、2000年の国勢調査速報値による一般世帯の平均(3.9人)よりはやや大きい。おそらく、高齢単身世帯からの回答が今回の調査では相対的に少なくなっているのではないかと推測される。男女の内訳は、男が771人(48.4%)、女が823人(51.6%)である。年階層別には、30歳代と10歳未満がやや少ないが、他の年齢階層はほぼ同じくらいの人数となっている(図3)。1995年の国勢調査における山田村の人口の年齢別構成割合と比較すると、今回の調査対象者の年齢分布は、50歳代と70歳代がやや多く、反対に60歳代が少ない。しかしそれ以外の年齢層では両者がほぼ同じ割合となっており、回答に大きな偏りはないものと思われる。
表2 世帯人員数
世帯人員世帯数
124
279
350
457
562
666
737
88
91
不明7
合計391
1世帯当たり
平均4.2人
表3 年齢層別のPC利用状況(%)
0〜9歳15.8 5.0 13.3 33.3 1.7 0.0
10〜19歳66.3 44.2 65.4 69.2 12.5 1.9
20〜29歳42.8 31.8 34.1 24.3 29.5 3.5
30〜39歳35.3 36.8 36.0 21.3 31.6 3.7
40〜49歳35.2 30.8 30.8 21.6 32.2 6.6
50〜59歳16.5 14.3 14.3 11.2 15.6 2.2
60〜69歳4.5 5.6 4.5 6.1 1.7 1.7
70〜79歳0.5 1.4 0.9 2.3 0.0 0.5
80歳以上1.1 1.1 2.2 1.1 0.0 2.2
注)ア:ふだんPCを使う
  イ:定期的にメールをチェックする
  ウ:ホームページを見る
  エ:PCでゲームをする
  オ:仕事でPCを使う
  カ:自分個人のHPを公開している

 PCの利用状況に関する質問項目に対する回答では、「ふだんPCを使う」と答えたのは全体(1,598人)の25.5%、「定期的にメールをチェックしている」は20.0%、「ホームページを見る」は23.5%、「PCでゲームをする」は21.7%、「仕事でPCを使う」は14.6%、「自分個人のHPを公開している」は2.6%であった(図4)。
 PCの利用状況を年齢階層別に見たものが表3である。PCの利用は10歳代の若者でその割合が非常に高いことを裏付けている。メールをチェックしたりホームページを見る、ゲームをするといった利用についても同様な傾向が見られる。

2. パソコン技術の習得について
 今回のアンケート調査では、PCの習得で苦労したことを自由記入で答えてもらった。自由記入の回答を分類して整理した結果では、「キーボードの使い方や入力の仕方が難しい」、「コンピュータのカタカナ用語が難しい」という回答が多かった(表4)。
 同様にPCの操作で困った場合に誰に教えてもらうかを自由に記入してもらったところ、「情報センター・役場」(20.6%)、「友人・知人」(19.7%)、「PCリーダー・お助け隊」(16.5%)、「学校の先生・職場の同僚など」(13.3%)という答が比較的多かった(表5)。また、PCの使い方を習った場所は、「学校」が最も多く32.9%、次いで「自宅(独習)」が28.0%、「勤務先」が22.4%の順であった(表6)。
表4 PCの習得で苦労したこと
人数(%)
使っていない・わからない25 10.4
キーボード・入力46 19.2
操作全般32 13.3
用語35 14.6
トラブル時の処理15 6.3
各種設定・接続15 6.3
その他47 19.6
苦労なし25 10.4
合計240 100.0
 注)複数回答、有効回答のみの集計
表5 PCの操作で困った時に誰に教えてもらうか
人数(%)
独学(雑誌・マニュアル等)22 7.0
子供・孫にきく19 6.0
その他の家族にきく6 1.9
PCリーダー(お助け隊)にきく52 16.5
近所の人にきく21 6.7
講習9 2.9
メーカーのサポート等6 1.9
学校の先生・会社の同僚・上司にきく42 13.3
友人・知人にきく62 19.7
役場・情報センター等65 20.6
その他9 2.9
苦労なし2 0.6
合計315 100.0
 注)複数回答、有効回答のみの集計
表6 PCの使い方を習った場所
人数(%)
自宅166 28.0
勤務先133 22.4
学校195 32.9
情報センター等90 15.2
その他・不明9 1.5
合計593 100.0
 注)複数回答、有効回答のみの集計

表7 世帯で所有するメール・アカウントの数
個数世帯数(%)
025 10.8
1130 56.3
237 16.0
317 7.4
412 5.2
58 3.5
61 0.4
70 0.0
81 0.4
合計231 100.0
 注)有効回答のみの集計
表8 加入しているML
名称世帯数(%)
ML-Yamada42 16.3
Yamadamura-net29 11.3
La-La-La等8 3.1
その他・名称不明36 14.0
入っていない・不明142 55.3
合計257 100.0
 注)複数回答、有効回答のみの集計
3. メールとPC利用の習熟度
 メールのアカウントは、1世帯当たり平均で1.5個を有していた(表7)。また、山田村の人たちがよく利用しているメーリングリストを複数回答で答えてもらったところ、ml-yamadaが42世帯(16.3%)、yamadamura-netが29世帯(11.3%)であった(表8)。
 村から購入したもの以外のPCを所有するか否かを尋ねたところ、所有する世帯が91世帯(37.3%)、所有しない世帯が153世帯(62.7%)であった。これらのPCの購入時期は、村でPCを配布する以前にすでに所有していた(1995年以前から所有)世帯が24世帯(30.4%)、昨年になって購入した世帯が22世帯(27.8%)と両極に分かれている(表9)。
 自費で購入したソフトウェアを尋ねたところ(複数回答)、「ハガキ印刷ソフト」、「ゲーム・ソフト」、「ワープロ・ソフト」の順に多かった(表10)。自費で購入した周辺機器で最も多かったのは(複数回答)、「プリンター」で140世帯(40.6%)、次いで「その他(パソコン用ラックなど)」「HDD」、「スキャナー」、「デジタル・カメラ」であった(表11)。同様に、自費で購入したマニュアル類を尋ねたところ、「OS(基本操作)」、「ワープロ」、「その他、不明」、「表計算」の順に多かった(表12)。

表9 村から配布されたもの以外のPC購入時期
購入時期世帯数(%)
〜1994年20 25.3
1995年4 5.1
1996年2 2.5
1997年7 8.9
1998年13 16.5
1999年11 13.9
2000年22 27.8
合計79 100.0
 注)有効回答のみの集計
表10 自費で購入したソフトウェア
自費購入のソフト世帯数(%)
ワープロ31 9.5
表計算9 2.7
ホームページ作成14 4.3
ハガキ・その他文書作成62 18.9
画像処理13 4.0
ゲーム32 9.8
音楽2 0.6
システム8 2.4
OS12 3.7
その他・不明37 11.3
なし108 32.9
合計328 100.0
 注)複数回答、有効回答のみの集計
表11 自費で購入した周辺機器
周辺機器世帯数(%)
プリンタ140 40.6
スキャナ19 5.5
CD-R10 2.9
MO8 2.3
HDD24 7.0
モデム・TA11 3.2
デジカメ14 4.1
メモリ10 2.9
その他26 7.5
なし83 24.1
合計345 100.0
 注)複数回答、有効回答のみの集計
表12 自費で購入したマニュアル
マニュアル名世帯数(%)
ワープロ19 8.4
表計算15 6.6
ホームページ作成6 2.7
ハガキ・その他文書作成2 0.9
画像処理3 1.3
音楽0 0.0
システム(トラブル)3 1.3
OS(基本操作)22 9.7
その他・不明19 8.4
なし137 60.6
合計226 100.0
 注)複数回答、有効回答のみの集計

 今後、パソコンの買い替えを希望する世帯は、全体の約半数をわずかではあるが上回っていた(図5)。パソコンが村に根づいていることを裏付ける数字と言えよう。
表13 情報センターの講習に対する評価
評価世帯数(%)
とてもよい15 23.1
よい29 44.6
それなり10 15.4
あまりよくない8 12.3
全然よくない3 4.6
合計65 100.0
 注)有効回答のみの集計


4. バックアップ体制について
 情報センターで行われた講習会に参加した経験のある人は、半数を超えていた(図6)。その講習に対する評価は、8割近くの人が役に立ったと評価している(表13)。
 関東や関西の大学生による支援団体である「お助け隊」に来てもらった世帯は、全体の約5割を占める(表14)。その評価も、7割以上の人が肯定的に評価している(表15)。
 パソコンリーダーから指導を受けた世帯も5割近くを占めている(表16)。また、パソコンリーダーに対する評価は情報センターやお助け隊を上回り、85%以上の世帯で肯定的に評価されている(表17)。
表14 お助け隊が来た世帯
 世帯数  (%) 
 来た 128 47.9
 来ない 139 52.1
 注)有効回答のみの集計
  
表16 パソコンリーダーが来た世帯
 世帯数  (%) 
 来た 119 48.8
 来ない 125 51.2
 注)有効回答のみの集計
表15 お助け隊に対する評価
評価世帯数(%)
とてもよい19 20.0
よい40 42.1
それなり9 9.5
あまりよくない18 18.9
全然よくない9 9.5
合計95 100.0
 注)有効回答のみの集計
  
表17 パソコンリーダーに対する評価
評価世帯数(%)
とてもよい22 27.2
よい38 46.9
それなり9 11.1
あまりよくない9 11.1
全然よくない3 3.7
合計81 100.0
 注)有効回答のみの集計

5. 今後PCをさらに活用するために必要なこと
 調査の最後には、各世帯がパソコンをさらに活用するために必要と感じていることを尋ねた(複数回答)。その結果、「やる気を起こさせる・意識改革」の必要性が最も指摘され(49世帯、20.1%)、次に「コンピュータの買い替え(と補助)」(32世帯、13.1%)、「新しい利用法・システムの模索」(29世帯、11.9%)という順に意見が挙がってきた(表18)。

表18 パソコンをもっと利用するために必要なこと
必要なこと世帯数(%)
コンピュータの入れかえ(助成)32 13.1
PCリーダー・お助け隊の充実8 3.3
講習の充実(回数・時間帯・内容等)23 9.4
学校教育の充実9 3.7
行政の姿勢・積極的な姿勢16 6.6
新しい利用法・システムの模索29 11.9
新しい通信インフラ15 6.1
通信費低減12 4.9
個人のやる気をおこさせる・意識改革49 20.1
ML/メール相手・ソフト等の情報の紹介・充実8 3.3
特になし43 17.6
合計244 100.0
 注)複数回答、有効回答のみの集計

付記

 この調査は、平成11年度の電気通信普及財団の研究助成を受けて実施したものである。



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