放浪記

1996。某県から上京してきた私は一人暮らしをはじめる。これは、慣れない生活の中でも活発に生きてゆこうとする私の放浪記である。


1996春-前編

近所の地理に明るくなろうと決意。実家から持ってきた自転車とともに出発する。

とりあえず古墳を訪ねてみる。古墳へ一歩近づこうと思い、柵を乗り越えようとする。どこからともなく男の声が・・・警備員である。どーでもいい言い訳をしてそこを去る。さあ、どこへ行こう?

門の前でボーっとしていると、なんと、私の前を行く男たち(推定65〜70歳)3人組のうちの一人のリュックの表ポケットのファスナーが開いているではないか!! しかも何か財布のような物体が落ちかかっているう!! たまげた私は声をかける。「おじさん、チャックあいてますよ。」おじさんは一瞬社会の窓を見たが、すぐに認識する。「おおう、どうもあありがとう。」

そんな御縁があってわたしは一座に加わったのだ。


1996春-後編

ここで3人を紹介しておこう。

  • マツさん-71歳。歯医者を経て現在某出版社の編集長。丸顔に眼鏡。髪は白く不毛。カメラ持参。

  • タケさん-66歳。中肉中背。髪は黒く、豊富。酒強。

  • ウメさん-62歳。若い。無口。ふっくら気味。帽子着用。影薄し。

    3人は明治大学のムジナらしい。「たまにこうやって三人で小旅行をしてるんだ」とマツさん。

    一行は某森林公園へと向かう。上京してきた経緯などを話しながら。

    到着。3人は桜の開花を期待していたが、東京における区内と市内の桜前線の相違のため失望する。”期待は失望につながる”もりしーの言葉通りだ。

    だが一行は山を登り始める。絶景。我を忘れしばし見入る4人。年齢こそ違うが心はひとつ。

    麓で昼食。私は手ブラで来ているのでちょっとづつ分けてもらう。遠足で弁当を忘れた子供の気持ち。

    日本酒を飲む。みかんを食べる。3人それぞれの妻の愛情を感じる。空は青い。空気はきれい。そして3人はじいさん。私は極上の幸福にうっとりする。しあわせだあ〜。しあわせって、こういうことだったのか。お母さん、ありがとう・・


    1996春-後日談

    マツさんのカメラで何枚か写真撮影をする。後で送るからと言われ住所を教える。「電話番号も書きますか?」と聞くと「イタズラ電話の容疑をかけられたくないから」との答え。驚く。さすが都会のじいさんはアカぬけている。Developing Manだ。

    約二週間後、マツさんの名で大きな封筒が届く。開けるとそこには一枚の便箋と一冊の本。手紙を読むとどうやらフィルムを出す際にしくじったらしい。本は美術館・博物館ガイド。たくさんの芸術に触れて、向上してくださいとのこと。あの時の幸福が蘇る。

    P.S. マツさんから私へ-くれぐれも悪い男には注意すること。東京には悪い男がたくさんいるから。誠実な男を選びなさい。


    1996夏-余興

    そう、あれは五月の末だった。私は暗い生活をしていた。学校へも行かずに毎日、毎日、何もせず、ただ息をしていた。つまらなくて、やる気もなくて、さびしくて‥‥でも私は、そんな生活から抜け出したかった。向上心は一応あったのだ。

    とりあえず私は、サークルに入ろうとした。友達まではいかないにしても、せめて顔見知りだけでもほしかったのだ。

    私に選ばれたのは、学内の旅行研究会だった。第一回目は飲み会だった。初めてお酒を飲み、酔っ払ったのも判別不可能な私は、満員電車に乗った。その中で私は吐いた。止まらなかった。一瞬、カバンの中へゲロを入れようと思ったのだが、それは買ったばかりのマリクワのかばん。外へ出した。そしてそれはピンクのスプリングコートやピカピカのエナメル靴などに流出。

    すると社内中の人たちからティッシュの嵐。嵐。嵐。日本人は優しい。あの時、私の吐いたものが自分のコートについたにもかかわらず、私を介抱してくれたおばさま。本当にありがとうございました。クリーニング代を払うべきでした。そこまで思考が働かなかったです。

    みなさんに迷惑をかけ、隣に座る女性の冷たい視線をうけ、泣きたくもあり、酔っていたためおかしくもあった。


    1996夏-本題

    サークルの第二回目は、某市へのハイキング的なものであった。
    これは私の予想を遥かに下回ったものであった。
    まあ、初めだし‥と気をとり直しいざ出陣。

    そこはまあ、なんというか、山あり川ありのところ。
    それぞれのグループでかたまっているから、当然私は一人者‥
    これじゃあ小学校の教室内となんも変わんねーよ、ケッって、おああー!! どっしぇー!!
     そこには一人、異なる人間がいた。
    日本酒「酒豪」を片手に、一人ぷ〜らぷらと歩いている。
    その人の名はマサミタ。おそるべし‥

    川魚をいくらで釣り、焼き、食べ、ついでに焼きそばなぞも焼き、食べ、マサミタと二人、酒を酌み交わしていたら、
    部員の上層部の人間がこう言った。「少し歩くと滝があるんだって。レッツラゴー!」「はぁーい!!」
    爽やかガールズ。

    つーことで、私と先輩(マサミタ)とあと一人陰の薄い人を残し、一行は滝を目指した。らしい。

    そこで先輩とご近所さんであることが判明。電話番号交換などをしてしまったさ。