[1] 政府は、教育職員免許法の「改正法案」を今国会に提出し、教員免許の取得要件を大幅に変更し、戦後の教育民主化のなかで確立した教員免許制度を大きく変えようとしている。
「改正法案」は教育職員養成審議会(以下「教養審」)の答申(1997年7月28日・第1次答申)を具体化したものである。新規採用教員のうち、一般大学で教員免許を取得した教員が中学校においては約50%、高校においては約80%を占め、その一般大学の約70%が私立大学であるにもかかわらず、教養審には私立大学の教職課程を直接担当する関係者が1人もいない異常な構成となっており、答申についても一般大学における教員養成の実状が踏まえられていないことが早くから指摘されてきた。「改正法案」は、このような答申の見直しもないまま、拙速に法案としてまとめられたものである。
[2] 教養審の答申では、「改正法案」に盛り込まれた「教科に関する科目を減らし(幼稚園〜高校の免許)、教職に関する科目を増やす(中学・高校免許)」ことなどに加え、中学校教員の免許については、文部省令で定めている教育実習期間を現行の2週間から4週間に延長するとの提言がなされており、今回の法改正と併せて文部省令がそのように改正されることになっている。とりわけ中学校免許にかかわる「教職科目の大幅増」と「教育実習期間の大幅な延長」は、一般大学に学ぶ学生の中学教員免許の取得を著しく困難にさせるものである。これは、戦前の師範学校による教員養成制度の反省にたって打ち立てられた教員養成の「開放制」原則を侵し、戦前のように教員免許の取得が教員養成系大学・学部中心になりかねず、ひいては教員養成に対する国の統制が強化されかねない危険をもはらむものである。
[3] 改正する目的として、「使命感、得意分野、個性を持ち、いじめ・登校拒否などの現場の課題に適切に対応できる、力量ある教員の養成」(「改正案の概要」より)、「教員の資質の保持と向上を図る」(「法律案」より)ことが挙げられている。しかし、この目的を達成するために何が必要であるのか、あるいは今日の「いじめ・ナイフ事件」にみられる深刻な状況などの分析は、教養審においても検討されていない。ましてや「教員の資質の保持・向上」の上で、教育実習の期間に重要な問題があるのかどうか、また、一般大学で免許を取得した教員に問題が多く発生しているのかどうかは、何らの検証もされていない。
また、「改正法案」では、「学校での社会人の活用の促進」と称して、教員免許のない「特別非常勤講師制度」や、免許のない者に免許を与える「特別免許状制度」を大幅に緩和し、これらの制度を無限定に全教科に拡大しようとしている。このことも今回の「改正法案」の重要な問題点である。
[4] 以上みてきたとおり、今回の教員免許法の「改正」は、現行の教員免許法によって初めて免許を取得した学生(1994年3月)が巣立ってから3年余を過ぎたにすぎない状況のもとで、現状についての検討・検証がないまま拙速に「改正」措置が講じられ、その結果、教員免許の「開放制」原則を揺るがすという、わが国の教員養成制度の根幹にかかわる重要な問題を含む法案となっている。
われわれは、このような教員免許法の「改正法案」は廃案とし、教員養成の「開放制」を原則とした21世紀に向けての教員養成制度の改善について、わが国の教員養成に大きな役割を果たしている私立大学の教職課程担当者を含め、教養審等での充分な検討を行うよう強くもとめるものである。
1998年4月14日
昨年七月二十八日、教育職員養成審議会(文部省の諮問機関)の第一次答申が発表されました。政府は先に、第一次答申を本答申として、今国会に「教育職員免許法改正案」を提出し、その法制化を拙速に進めようとしています。私たちは、国会および文部省に対して、「教育職員免許法改正案」の法制化の見送りを強く求めるものです。
今回の改正案は、いわゆる「開放制」に基づいておこなわれてきた私立大学における教員養成をきわめて困難なものとするものです。これまで「開放制」のもとで、教員養成のための教育学部をもたない多くの私立大学からも、免許取得に必要な課程を履修することによって教員資格を取得した人材を社会に多数送り出してきました。教員免許を得た人が、教員にならない場合でも、教育の必要性や役割を理解し、それぞれの職場・生活の場で活躍することを通じて、教育を重視するという国民の合意形成に大きく貢献してきました。
答申では、履修科目の分野構成の大幅な変更、教育実習期間の延長がもりこまれています。しかし、教員資格を付与する条件として、これらの変更をおこなうことが現在の教育現場が抱える問題を解決するために必要不可欠なものかどうかについての議論に、合意があるわけではありません。
今回の「教育職員免許法改正案」に対しては、私立大学の教員養成課程にかかわる教員および職員から反対の声が挙がっているだけでなく、教養審のヒアリングでは日本私立大学団体連合会からも、教養審答申の基本部分について見直しの意見がだされています。また、中学・高校などの教育現場からは、教員となってからの自己研修を含めた研修制度の保証と充実こそが緊急課題であるとの切実な声があります。しかし、これらの声は反映されておらず、法案の成立を急ぐ根拠も明確ではありません。
私たちは、同法案の成立を拙速に進めようとしていることに反対し、法案の廃案を強く求めるものです。
一九九八年四月二〇日
山田の私的ページへの入口へゆく 山田晴通研究室へゆく CAMP Projectへゆく